たいじゅの畑食農研究室です。
いやはや、今年は暖冬ですね。畑や草木の様子を見ていても、どことなく季節が早い気がします。
梅の花が咲くのも足早な気がします。とはいえ厳冬期は寒暖の繰り返しになり霜も降りますから、暖かいからと成長を期待してばかりもいられないのが実情です。植物にとっては積算温度が重要ですが、あまり暖かいと薹立ちが心配ですね。
さて、筆者のような副業としての農業をする場合、採用する営農計画は常に悩みの種です。もし自給自足も兼ねているのであれば多品目栽培であるほうが献立上のメリットは遙かに感じられるでしょうが、隙間時間を使って作業するのですから作付面積を闇雲に増やすわけにも参りません。
様々な露地野菜が供給できるメリットと、販売上のデメリット。このトレードオフがあるのが実情です。
結論から言うと筆者は様々な手法で課題解決を試み、約100坪という狭い土地をフィールドとして年間野菜セットの安定的な出荷を実現したわけですが、それは絶え間ないPDCAの産物です。ほとんど生産管理といっていいものですので、なかなか期待通りにいかないのが実情です。
本記事では、多品目栽培を10年間続けて痛感したデメリットを紹介します。
メリットばかり紹介しても反省の薬にはなりませんので、私が開墾時に「知っときゃよかった~!」と思えるような構成を心がけました。ご参考になれば幸いです。
①思ったほど野菜がなくて焦る
なんといっても野菜がないですよね。
例えば100坪300平米で畝間事情も考えると、200平米の作付面積が精々といったところです。ここに20品目が年間通じて存在したとしましょう。すると1品目あたり10平米ですね。これって、キャベツ(畝間40cm、2条植え)にすると高々50株です。
自給用ならいざしらず、冬季を通じて販売を計画して50株って結構厳しいですよ。こういった問題がキャベツに限らず常に存在します。
極めて重要なのは作付量ではなくて、見込み収量の確度を挙げる事です。
これが出来ている経営者であれば、多かろうが少なかろうが本質ではなくなります。ないものは補えばいいだけですからね。そこまでの道のりが大変だと実感しました。
②連作を回避するための作付計画がパズル状態
ナス科は3年以上、サトイモは5年以上休ませなさいとか言われますね。
詳しくはググって見てください。
この連作、まあ実感としてはキツいものもあればユルいものもあり一概には言えませんが、連続して植えるといい事はあまりないのは確かなようです。多品目栽培の場合は葱属を植えてキャンセルしたことにしたりして、割と騙し騙しなところはあります。それでも1年以上あける事で連作障害を回避しようと努めます。
これが好きな人ならいいんですが、嫌いな人なら煩雑で嫌気が差すことでしょう。
そのためのプログラムを開発したいくらいです。
コツは、3期分まとめて考えるということですね。つまり、2024年春作を作付計画立案する時点で、2024年秋作と2025年春作を考えておくという事です。この時点で私の話を聞いてくれなくなる人が続出しそうで怖いですが(笑)
連作を回避するのって、その作付だけみれば難なく出来るんですよね。問題はそれを継続させるのが大変です。作付計画は紙ではなくてEXCELシートで管理するのが超オススメですね。何回も推敲し直しますので、鉛筆で書いてたら気が変になると思います。。
ちなみに、私の圃場で深刻な問題となっている問題を列挙します。ぶっちゃけ、休耕田用の土地を倍持っておくのが土壌保全的にも管理の効率化にもいいかもしれませんね。その代わり、草の管理が大変です(私の個人的感想ですが、隙間でやっている人にとって、頭脳で解決するほうが時間と体力を消耗するよりもストレスフリーだと思います)
- アブラナ科生理障害、虫害(白菜の軟腐病やダイコンサルハムシ)
- ピーマンの青枯れ病
- ニンニクはるぐされ病
実は連作障害に悩まされているというほどの深刻度ではないのですが、今後いろいろと出てくるかもしれませんね。太陽熱消毒を実施するといいのでしょうが、今の主軸は営農計画で乗り切ろうとしています。
③多品目栽培の割に端境期はあるし貧弱なラインナップ
これ、最初はほとんど問題視していなかったのですが、かなり深刻な課題です。多品目栽培なら野菜は少ないけどラインナップは充実しているでしょ、という思い込みがあるんですが、全然そんなことないです。
ほんまショボい時期が割と多い。これは安定野菜供給という理念からすると完敗に等しい状況です。
具体的には4~5月、8~9月、2~4月ですね。このあたりはラインナップが貧弱になることに注意してください。
結構よく見る光景なのですが、野菜セットをセールスしているもののしっかりと端境期が存在し、その時期だけ「ピーマン、ししとうばっか」とか「芋、根菜ばっか」とか平気で販売している業者がいます。セット内容はお任せですから信義にもとる行為ではありませんが、献立作る人からすると残念至極ですね。工具箱にネジしか入っていないも同然ですから。買い出しに行かないといけません。
野菜セットはエンタメですから、それでもいいのかもしれませんが。
私の場合は自炊者の立場から考える癖がついているので、セット内容も気を遣っています。
端境期の克服というのは当ブログでは頻出ワードとなりますが、提供内容(”セット販売としての品質“)の充実を重視していることを常に念頭に置いています。
④過去の作付状況や土地気候に翻弄される
連作障害とも関連してくることですが、開墾初期には問題にならなかったことが、何年と続けて行くうちにボディーブローのように効いてきます。
代表的な例は先述のアブラナ科障害ですね。アブラナ科が好きな生物はとにかく多い。食草のベストセラーといったところでしょうか。ダイコンサルハムシ、アブラムシ、ネキリムシ、ヨトウガ、モンシロチョウ….こういったアブラナ科につく害虫が爆発的に増えていきます。
虫害が多発する状況を無農薬で覆す方法は限られています。例えば太陽熱消毒ですが、これは休耕地が用意されていることで一定の効果を生みます。色んな野菜があちこちにランダムに植わっている状況ですと隣の畝からもやってきますので。
結局、物理的防除(ネット、虫を人力で潰してとさつする)など、経済的・時間的コストを消耗する手立てを講じざるをえない。これが時間単価を下げますし、家内事業ですと年収を頭打ちさせる要因となってしまいます。
⑤種苗代がかさむ
数100平米の土地で家庭菜園を始めた当初、種を大量買いした経験ありませんか?(笑)
これ、趣味ならいいのですが事業だと大きなロスになります。
種苗って一袋単価が500円未満とワンコイン以下で買えるので何となく出血はわずかだと勘違いしてしまうのですが、多品目栽培の場合この積み重ねが経営を圧迫し始めます。
例えば筆者の畑では100品目ほど栽培していましたが、現在はその半分程度に抑えています。
種苗コストを500円としましょう。100品目だと5万円。種まき培土を作れるか、作るのが妥当かは人次第ですが、外部調達したとしましょう。年間1000株台の育苗をしますので、およそ3~4千円かかります。4千円としましょう。以上、経費は月4500円。これが大したことないと思えるのは恐らく趣味の範疇でしょう。なぜならば種の最小容量の袋だと、この経費でも100坪分使って足りなくなるくらい少ないです。面積を倍加すると種袋も倍量。ある程度の規模からは大容量特価の効果が出てきますが、他にも経費発生源は幾らでもありますので、少しずつ合理化を行っていかないと利益が出なくなってしまうので要注意です。
【補足】自家採取で経費削減なるか?
最近、自家採取や自然農法というキーワードがブームですよね。なんとなく一蓮托生で捉えられているような気もします。
私は有機農法を学んで実践してきていますが、種取りもやっております。
種取りしたら経費がまるごと浮きそうなものですが、結論から言うと自給自足がメインでなければ自家採取に依存しないほうが無難です。
理由は色々ありますが、ざっと以下の通りです。
- 交雑しまくる(狭い区画で高回転させるデメリットの一つですね)
- 種取りの為に実が熟すのを待っていると生産ロスになる
- F1品種が使えない
- 一般的に固定種は品質がばらつく
私の経験上、かぼちゃ、きゅうり、ズッキーニといった瓜科の野菜は特に交雑による失敗の傾向にあると思います。このあたりは他所に譲りますが。
繰り返しますが、自給用であれば問題ないんですよ。
ただ、端境期なしの常時販売の場合、品質や出来がまちまちだと生産計画が大幅に狂う。狂った結果、平米収穫量も期待する単価も減る事に繋がります。固定種もいい面はあるんですが、慣れていない経営初期の段階では特に、種は種屋さんに任せるべきだと筆者は考えます。
自家採取は理想的には経費削減に繋がりますが、現実には1期1品目の失敗が大きな損失に繋がるという意味では決して侮れないリスク要因ですね。
自家採取で事業を運営するならば、種苗屋さんが事業として行っている程度の種取りの基本はしっかりと予備知識としてもっておくが最低限の心得だと私は思います。
その労力とコストを天秤にかけて、外注か内製化のいずれを採用するかを決めるのが良いと思います。
⑥出荷規格に当てはまるような美品はレア品
いわゆる規格品とB品に分けるのが好きな方って多いですよね。
高品質な野菜を作りたいという思いはよく分かりますが、あれは流通事情とか量販店での販売の都合上決めた規格なんで、直販をしている人が必ずしも準ずる必要性は薄いように思います。
工場での寸法公差を、手編みのマフラーに当てはめているようなものですからね。まずぴったり収まることが稀なんですよ。
そして大規模生産農家も、きゅうりにまじないをかけて寸法公差を一定に納めているわけではなく、ある程度は廃棄ロスとして処分しています。歩留まりを向上させるのがプロの妙技であると思いますが、一定の規格外は覚悟の上です。
栽培技術が未熟ならばいわゆる美品の割合はより少なくなりますね。
「生産者として美品以外は売れないな。美品だけ卸そう」と思っていたら、まず利益は出ないでしょう。そもそも貴方のユーザーは形(工業規格?)を最重要視しているのでしょうか?そうかもしれません、そうでないかもしれません。それは反響によって確かめればよいと私は思います。大事なのは商品に対する満足度ですから。
ところで、生産高を頑張って見積もる事業者は多いのですが、ロスをきちんと加味できている人は多くないように思います。小さな農業で安定出荷をするんであれば、「商品状態の袋の採れ数」を見積もるスキルは超重要です。生産計画においては収穫見込みよりも出荷量見込みを重視しましょう。
⑦なんか理由が分からんけど超忙しい
多品目栽培において一番「割に合わんなぁ~」と思うのはこれですね。。
なんか理由が分からんけど超忙しいんですよ。最初に作付計画を立てるときにある程度のタクトタイムを想定して組み立てるのですが、基本その通りに回りません。
なぜでしょう。
ひとえに多品目栽培はとにかく非効率栽培だからです。
隣の畝同士がまったく違う野菜なので小回りの利く3馬力程度のミニ耕運機しか使えませんし、それぞれに摘果、摘心、誘引、整枝、土寄せといった個別の作業があります。次期作付の計画も畝ごとにばらばら。これらを満遍なく行う必要に駆られるのです。
よく年間販売計画に基づいて最低限1反よりも広い面積からスタートしたいという方がおられますが、販売量があるのと仕事が回るかどうかは別問題です(実際は、何が何袋あるのかも見積もれなくなるみたいです)。ポテンシャルがいくら高くても実行性がなければ収益に繋がりませんからね。まあ、一人農業で気ままに出来るのであれば、数反くらいはいけるのでしょうが…。
それでもよくある「休めない農業」になりがちです。
まあ、このあたりはむつかしいところなんですが。。。
筆者の場合、主務は子育てですから病気になったら看護もあるし、体力も温存しながら乗り切っていかないといけません。出たとこ勝負が利かないのが育児副業のデメリットの一つですね。
そうでなくても、天候に左右されてどんどんと予定が押していくのが農業あるあるです。
将来起業するときに、仕事とプライベートはきっちり分けたいという方にはきつい話ですね。
やはり効率が良いのは一つの品目に傾倒する事だと思いますが、それだと自給自足、野菜セット販売といった目的と相反します。適当なところで折り合いをつける能力が求められるというわけです。
まとめ
多品目栽培は素晴らしい成果を生む一面もあるのですが、基本的には非効率な経営形態であるというのを受け入れた上で何が出来るのかを考えなければなりません。
あれこれ手を出したくなる誘惑が多いのも特徴のひとつ。資材や種苗に自分の時間….など、どんどんと吸われていく「沼」でもあります。
ただ、商店としての魅力が感じられる事は事実です。ラインナップが多いのは客引き効果が期待できますね。
余談ですが、私の経験上、端境期を無くそうという試みをすることで産直での売上げも上がる傾向にあるようです。作りやすい野菜を作りやすい時期に出すと、大抵の場合、競合(≓強豪)が溢れかえっているんですよね。ところが端境期にはめっぽう少なくなる。こういったタイムラグを自然と演出できるようになるのも途切れのない出荷を意識した営農計画のメリットですね。
メリットもデメリットも盛りだくさんの多品目栽培ですが、自給自足をまずしたい!という方には単品目に絞るよりもいろんな野菜をまず作り慣れるというのがオススメですし、経営が安定するまでは消費を抑えるという副次効果に期待するのも悪くないと思います。
とにかく色々苦労が多い面はありますが、楽しい事も同じ量だけありますので多品目栽培を楽しんで、ゆくゆくは販売に繋がってゆくといいですよね。
最後までお読み頂き、誠に有難うございました。