たいじゅの畑食農研究室です。
昨年、私が通っていた実習圃場でお会いした方と雑談をしていたところ、私が食育活動の一環で保育園に納品している事を「すごく羨ましいです」と仰っていました。社会人になってからのリスキリングで農業を選択される方の中には、食育や食農という子供達へのサポートを目指している方も少なからずおられるのではないでしょうか。
食育活動の法的根拠は食育基本法といいまして、これは農林水産省の所轄となります。
その中身を読んでいただくと分かるように(本記事では割愛します)、まずは家庭での充実があり、保育教育現場においてもその重要性をしっかりと認知したうえで取り組まなければならない、とされています。
即ち食育活動に主体的に関わる事の出来るパターンは以下の3つとなります。
- 公的機関(保育園、幼稚園、小中学校)において保育士、栄養士、小学校教諭、栄養教諭に就く事
- 公的機関への食材や情報提供をする立場
- 課外での子供達への直接的サポート
“小さな農家”が実際に食育に関わる方法(2つの選択肢)
さて上記パターンのうち、農業従事者がたずさわることの出来る選択肢は、食材や情報提供、もしくは民間活動として子供達に直接食育のきっかけをあたえる2パターンとなります。私は栄養士資格を保有していますので原理的には公的機関を通じて食育活動に従事できますが、実際はそうではなくフリーランスや野菜生産者としての立場から食育活動に参画していますので、野菜作りをされている方で食育へのアプローチを考えておられる場合の参考になればと思います。
日本の農家形態から考えると少品目栽培を目指す方が多いと思います。少品目でも地場野菜や伝統野菜、また受賞経歴があったり地域で人気があったりと、特色を活かせばいくらでも参入可能性はあると思います。一方、新規就農者で長年培った経験が乏しく、しかも駆け出しで事業立ち上げに奔走している中だと、どうしても野菜を卸すことで手一杯という方も多いでしょう。
今回は私自身がそうであったように、そのような駆け出し~安定軌道に乗るまでの暗中模索期に、事業の一側面として食育への参加を望まれる方を念頭にお話を進めてゆきたいと思います。
最初の壁|機会損失
農業あるあるですが、野菜を作って販売するとなると少なからず下記どちらかの状況に直面します。
- 野菜はあるけど売り先がない
- 売り先はあるけど野菜がない
⇒在庫を抱えられないが故に、どうしてもミスマッチが生じやすいです。またリードタイム(土作りを始めて収穫に至るまでの期間)が長いのもネックです。仕入れや受注生産という手段が選べない以上、食べ頃になったらさばいていかないと商売にならないのが農業の世界です。いざ食育関係の引き合いをいただいたとしても、何の対策も講じていない場合、折角の機会を損失する可能性が高くなってしまいます。いかんせん直販は営業努力が少なからず必要なので、卸売りのエキスパートである農業協同組合を起点とした商流の利用は合理的な選択といえます。
筆者自身は主夫業の傍ら食全般を扱う事業体を立ち上げ、かつ共働きなので野菜の商流を再考することはある意味避けられない道だったのですが、もし専業で食べていくならば、恐らく従来通りの商流で勝負したと思います。ただ、隙間時間を用いたプチ起業のような形から農業に入られる場合は、一つの可能性としてご参考になるかと思います。
シーズニーズを意識する!
直接販売で稼ぐことを想像してみてください。貴方が持っている武器は、畑の収穫物。どうやって売りましょうか?もっともよくあるパターンが「自分の強みを生かしてPRする!」というものです。これを「シーズ」と言います。一方、逆のパターンとして「お客さんの望みを叶えるべく商品をつくっていく!」というのもありますね。これを「ニーズ」と言います。メーカーの製品開発現場ではこの二つを組み合わせて「シーズニーズマッチング」という言葉がよく使われます。すなわち自分と顧客との取引が円滑に進むための条件選びですね。
野菜の場合でも同じように考えるべきと思います。というのも、野菜を作っている側からすれば「今一番美味しいタイミングだ」「畑に旬の野菜がてんこもりにあるね!」「今年のトマトは甘い!超甘い!」と思っている時に売りたいし、売れるべきだとつい考えてしまいますよね。でも、お客さんからすれば実はそのタイミングじゃないかもしれません。実際、産直における一年の販売動向を見ますと、農家が「いま超良いタイミング♪」と思っている時に限って、どこの農家さんも同じ状況で、結果売り場には野菜がダブついて価格が暴落する(売れない、儲からない)というシチュエーションが嫌というほど豊富にあります。
野菜を作っている本人からすれば売りたいときに売れて欲しいものですが、直販、しかも食育活動を念頭に置くならば「お客さんが欲しいと思う品目・タイミングを重視する」事が極めて重要です。
(↑イベント(納期)に追熟が間に合うかどうかも悩み所 かぼちゃ「ほっこり133」2022.11収穫)
本記事では、筆者が「これやってて良かった!」と安堵した経験に基づいた3つのアイテムをご紹介したいと思います。以下、列挙します。
- 多品目栽培”かつ”年間を通じて絶え間ない収穫を意識する
- 公式WEBサイトやSNSを立ち上げておく(可能ならば販売ショップがオススメ)
- 農業理念を同じくする仲間がすぐそばにいる
では個別にみてゆきましょう!
①多品目栽培”かつ”年間を通じて絶え間ない収穫を意識する
筆者は100坪の圃場にて年間100種類ほど生産しています。それは間違いなく多品目なのですが、事業を進めるにあたっては年通算の数字はあまり意味がなく「常時7~8品目程度を出荷出来る体制」というほうが相応しいように思います。野菜の旬は平均して1~3ヶ月といったところですので、結果的には50種類前後は最低減必要なのですが。
何種類必要なのか?具体的な設計(営農計画)はどんな感じ?といった疑問については収益構造の話になりますので本ブログでは触れません(興味のある方はご連絡ください)。まずは常時7~8品目が年間を通じて絶え間なく収穫出来るという意味での多品目栽培を目指してみてください。すると次のような効果が得られます。
- 食育への参画機会が増える(具体例はこちらの記事をご覧下さい)
- 常に野菜販売をしているという経験を買われる
- 様々な野菜に詳しくなる(提案力UP)
- 常時野菜セットを組むことができ、それが客単価向上に繋がる
(↑野菜セットの内容(質、量、ジャンル、バリエーション)は献立やメニューの都合上重要です)
最後の客単価向上は食育へのアプローチとはあまり関係ないように思うかもしれませんが、生業として成立していなくて単にボランティア活動の一環としてやっていると、きつい言い方かもしれませんが、素人野菜という認識を持たれてしまいます。「その辺のおっちゃんが趣味で作った野菜」だと、どうしても保護者の方を意識してしまいますよね。まあ、施設の自給自足ならアリだと思いますが….。そういった意味でも、常時出荷しているという”実績”を伴うのは大切なことです。
ここでのポイントは、野菜の提案力と収益性のトレードオフを解消することですね。その解決策の一つとして多品目栽培は都合がよいというわけです。
②公式WEBサイトやSNSを立ち上げておく(可能ならば販売ショップがおすすめ)
農業界隈に知られた人でも、保育園や介護施設、教職の場においては無名の人ですので何らかの「名刺的存在」があったほうがいいように私は思います。もちろん名刺でも良いのですが、名刺に書かれた情報量より圧倒的に公式サイトから得られる情報のほうが多いですよね。本ブログもプロフィールの存在があるからこそ、読者の皆様に筆者のことを沢山の情報量で紹介することが叶います。最近ではLINE公式アカウントのQRコードを名刺に埋め込んだりすることも出来ますし、facebook、X(エックス)、Instagram、tiktok、youtubeなどのSNSアカウントを記載することも勿論OKです。SNSや公式サイトで活動実態をこまめに更新することで、お客様が活動実態を把握しやすいというこの上なくコスパの良いメリットがあります。
(↑アップロードの情報から取引先の雰囲気を感じとる事も多いですね。)
私の場合は販売ショップを立ち上げてオンライン通販が可能な体制を構築しました。
- 販売実態の把握、事業規模の推定
- 単価の推定(見積もりを待つことなくざっくり把握)
- 欲しい野菜のイメージを掴む
といったように、単なる公式サイトでの活動報告よりも広報の意味合いがグッと増します。そればかりでなく、営業の誘導路としてオンラインショップを紹介するだけで手間を省く事が出来ます。細かなやりとりを省くことで事業に集中出来るというのは大きなメリットだと思います。
【余談】単価設定の問題がありますが、私個人の意見としては単価固定が望ましいと考えています。例えばトマト100g200円と設定したとしましょう。「馴染みのお客さんだから150円にしとこう」とか「豊作だったから200gで同価格でいいや」とかしてますと、取引数が増えてくるとワケが分からなくなってきて辻褄の合わない事を言ってしまう恐れがあります。100g単価を設定しているのにそのときの都合でコロコロと変えるというのは、価格は存在しません!と宣言しているようなものですので避けた方がよいと思います。その代わり、例えばクーポンの活用、値引きやポイント付与という形での還元で対応するのが個人的にオススメです。
③農業理念を同じくする仲間がすぐそばにいる
さて最後に”仲間”です。これは勿論のことながら「心の支え」的な意味も多分に含まれるのですが、実務の側面に焦点を絞ってお話しますと、①の「常時野菜セットを組むアビリティ」に直結してくる話でもあります。
最初にお話しましたように野菜作農家はストックも原則無理ですし受注生産もリードタイムの関係から原則困難です。そうなると年に何回か訪れる「端境期(野菜が極端に少なくなる時期)」を乗り切る事ができません。ここを気合いで乗り切ろうとする直販向けセットを組んでいる農家さんも少なくないのですが、端境期の野菜って被るんですよね、献立的に。野菜のジャンルの重複はセットの品質上なるべく避けたいところです。
そこで頼りになるのが”仲間の存在”です。
野菜セットの販売理念に沿った形で仕入れを実施する仲間を前もって探しておくのがオススメです。
筆者の販売商品の野菜セットも、年間平均1割程度は仕入れです。とはいえ、無農薬有機農法というブランドを損なうことは絶対に避けたいので、私の場合は「同じ農業学校出身で筆者と同じ農法または多少有機資材が異なるくらいのマイナーチェンジ程度」のものや、全国有数のオリジナルブランドを稀に同封したりすることもあります。
(↑マルシェを通じてつながりを広げるといった人脈づくりが後の事業に生きてきます。)
当然のことながら「○○農園さん純正品のみ使ったセット」というバリューは損なわれる訳ですが、端境期にもかかわらず拘り抜いて良品質の野菜セットが提供出来ないよりは、その時期にもっとも美味しくてバランス間隔に優れた野菜セットを提案するほうが、ニーズに沿ったものとは言えないでしょうか。また、逆に足りないから補填するのではなく、自分が美味しいと思うもので最適化することも可能ですね。
ただ一点注意があります。商取引においては産地偽装は大問題ですので、納品書には必ず出所を記載するようにしてくださいね。信義の上でも極めて重要な事です。
農業生産を開始して10年は経過しますが、それでも端境期はどうしても発生してしまいます。それは小規模だろうが大規模だろうが変わらない事でして、営農計画上の課題と言えます(どこかでメソッドをお伝え出来れば良いのですが….知りたい方は(まだ準備段階ですが)ご連絡ください)。そのような状況でも、19週連続で野菜セット3セット以上の納品を達成(2024年1月時点)のは、やはり自家農園の枠に囚われずにクリアーな仕入れを導入しているからというのも大きいです(依存度は年々下がっています)
もし野菜セットでの商売をお考えになられているのであれば、仕入れ先の検討も考慮に入れておかれればよいかと思います。
食育への第一歩は事業安定化と提案強化から!
結局の所、事業を安定軌道に乗せるに尽きるように思います。ただ、そこに特有のトレードオフ(収益性と提案力)が存在するので、ツールを駆使して乗り切りましょうというお話でした。
上記の他にも、たとえばロゴを作ってみるとかPOPを作ってみるとか、レシピカードを作ってみるとか色々な工夫が考えられます。筆者の屋号ロゴですが、これは事業開始年の年末年始に妻と一緒にパワポで作成しました笑 イラストレーターに依頼するのが王道ですが、やっぱりオリジナリティ溢れるロゴというのは格別ですよね。私は栄養士の国家資格も保有していますので、変わった野菜もレシピを添えたり、栄養知識をかいたお品書きを同封したりとユニーク性をアピールしています。結構好評なんですよ。
(↑こまめに試作して試食することもまた、とっても大事なことです。見た目じゃ分からない事もマメにチェックする習慣を身につけたいですね)
というわけで今回は、食育への参画にあたってどういったことが役に立ったかをご紹介しました。
最後までお読みいただき、誠に有難うございました。