食農・食育するなら絶対に身につけておきたい食品衛生学の基礎知識①「細菌の増殖条件」 

たいじゅの畑食農研究室です。

私が生鮮野菜を初めて出荷する際に一番ビビっていたのは「これで食中毒になったらどうすんねん….」ということでした。ご購読頂いている方の中にも野菜などの食材をご提供されている方がいらっしゃるかもしれません。

実際に人ごとではないと感じたニュースが2023年11月に報道されました。

マフィン食べ腹痛 食中毒原因の細菌検出されず 行政処分見送り

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231219/k10014292491000.html

以下、記事を引用します。

11月11日と12日の2日間、東京ビッグサイトで開かれていたイベントで、目黒区内の焼き菓子店がマフィンを販売し、食べた人が腹痛やおう吐、下痢の症状を訴えました。

目黒区保健所によりますと、症状を訴えた人はこれまでに10人確認されていていずれも症状は軽く、その後、回復したということです。

保健所が、店に立ち入り検査を行うとともに患者7人の便と15個のマフィンを分析した結果、食中毒の原因となる細菌が検出されなかったとして、12月15日、営業停止といった店への行政処分を見送ることを決めました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231219/k10014292491000.html

記載の通り食中毒菌は検出されず行政処分は見送りとなりましたが「納豆のような臭いと糸を引いているのを確認した」と区の保健所に通報された事を皮切りに厚生労働省がリコール対象事案としてホームページに掲載、マフィンの健康への危険性について「CLASSI」と分類し騒動となりました。

マフィンの件は本記事の本題ではないので詳細は割愛しますが、食品を提供する以上、大なり小なりのリスク管理をしなければいけないというのが業界の掟です。食品衛生法では、その目的として「食品の安全性確保のために公衆衛生の見地から必要な規制その他の措置を講ずることにより、飲食に起因する衛生上の危害の発生を防止し、もって国民の健康の保護を図ること」としています。WHO(世界保健機構)の環境衛生専門委員会が定義している内容も概ね似たようなものとなります。

この食品衛生法で扱う食品の定義ですが、

  • 食品衛生の定義・・・食品、添加物、器具および容器包装を対象とする飲食に関する衛生をいう
  • 食品・・・すべての飲食物をいう。※ただし、薬事法に規定する医薬品、医薬部外品および再生医療等製品は含まれない

と条文にありますように、もちろん野菜も果物も含まれます。

農業従事者は知らなくていいというには少々微妙なのです(ただし、法律に基づいた行政処分の流れから察するに、対象となるケースは稀でしょう。)

加工食品に関しては別記事で詳しく取り上げようと思いますが、食品衛生責任者の設置と、営業許可を受けた施設が必要であることは周知の事実ですね。これを正しく守った上で、食品の安全性確保を怠ってはならないというのが食品衛生法の定めであり、先述のマフィン騒動では、そこが争点となったわけです。

一連の記事で取り上げたいこと

以上のことからも、農業従事者で今後、加工品もやってみたいなと言う方も、野菜だけ(果樹だけ)しかしないけれども、知識はしっかり持っておいて安心して出荷したいなという方にも読みやすい形で食品衛生の基礎知識を紹介していきたいと思います。

一連の記事内容は栄養士養成課程の必須科目である「食品衛生学」の講義内容に基づいておりますので、食品衛生責任者養成講習会と同等以上の知識を体系的に身につけられると思います。講習会については食品衛生の講義時間が2時間30分、法令に関して3時間などと決まっているようで、これはこれで長くて険しいと思う方もおられますが、栄養士になるには食品衛生学だけで90分授業を30コマ(90分×30回)受講しなければならず、網羅するととんでもない量の記事量になってしまいます(注:食品衛生学の授業ボリュームは養成学校によって異なるようですが、概ね100時間程度実施するようです)。ですので、今回はあくまで「基本のき」ということでご了承頂けましたら幸いです。

細菌の増殖条件

さて食中毒の主な原因である微生物ですが、私達が触れるほぼ全ての食品に微生物はいます。例えば食中毒のイメージが少ないフレッシュなミニトマトのヘタには、大腸菌群と呼ばれる細菌が潜んでいます。このことは栄養士養成課程で実習において実際に検出したりします。有機野菜のほうがどちらかというと検出の頻度が高いようですね。これは施肥や農場によると思いますので、農法によって多い、少ないとは一概にいえません。

といったように、まあどこにでも微生物はおろか食中毒原因菌は潜んでいると考えて頂いて差し支えないのですが、では安全な食品とは何か?というと、①細菌数がそもそも少ないか、限りなくゼロに近い事、かつ②細菌の増殖条件を満たさないこと。この2つを同時に満たさないと安全とは言えません。

①細菌数がそもそも少ない、または限りなくゼロに近い⇒これは最初の食品の鮮度が良いこと、食品に触れる器具や包装、通い箱、人体の部位が清潔であることが挙げられますね。要領を得た話ではないかと思います。問題は②細菌の増殖条件ですね。

これについては5つの条件(+α)をぜひ覚えておいてください(これめっちゃ重要です!

  1. 栄養・・・栄養素(アミノ酸、ペプチド、糖類、有機酸、無機塩類、ビタミン)
  2. 温度・・・発育可能温度
  3. 水分・・・水分活性
  4. pH・・・水素イオン濃度
  5. 酸素・・・酸素需要
  6. (+α)二酸化炭素、浸透圧など

細菌は、条件が整った段階で「増殖曲線」と呼ばれる3つの移行期を経て爆発的に増殖、死滅に至ります。

その条件というのが、1~5(+α)にあたる訳ですね。

ここをしっかりと押さえておけば、食中毒を招くようなミスを未然に防ぐ事が出来ますので、繰り返しになりますが是非覚えておいて頂けますと幸いです。

1.栄養

要するに「微生物のエサ」ですね。無用にエサを与えなければ殖えようがないということです。とはいえ、食品とは私達の糧、すなわち微生物のエサであることが多いわけで、対策に限度があります。微生物のエサになるようなものが多いと判断されるものは、2~5の対策を講じましょう。

ところで、新鮮な野菜が食中毒菌の汚染の心配が比較的少ないのには主に3つの理由があります。

  • 野菜や果物は収穫後もしばらくは細胞が呼吸して組織が活性を保っている
  • 収穫したての傷みのない野菜は、栄養となるアミノ酸や糖がタンパク質や炭水化物という微生物にとって分解しにくい状態で存在する
  • 加熱前提の野菜が多い (※微生物の殆どは、中心温度75℃以上、1分以上で死滅してしまう)

生鮮食品に関しては病変したりするものや表面がおかしかったりするものは外観で区別しやすいことも幸いして加工食品に比べて予防しやすいといえるでしょう。

完熟した果実類はあまり日持ちしないことに留意が必要でしょう。

また、特に生食するものに関しては圃場、収穫、調整、梱包、出荷…..いずれの段階においても微生物の汚染または増殖を契機に食中毒が発生する懸念がありますので、品温(野菜等の保管温度)や作業標準といった出荷マニュアルにきちんと従う必要があります。

給食の大量調理マニュアルでは、生食するものは規定濃度の次亜塩素酸ナトリウム水溶液で消毒することが求められています。

2.温度

温度はとても重要です。細菌の分類によって高温菌、中温菌、低温菌と分かれますが、いずれも発育至適温度が決まっていて、高温菌ですと50~60℃、低温菌ですと10~20℃です。しかしほとんどの病原細菌は中温菌に該当し、その至適温度は20~40℃と常温付近です。なお、発育が出来るか否かという観点では、温泉に存在する雑菌で70℃まで耐えるものや、0℃付近でも発育するシュードモナス属という珍しい細菌が存在しますが、これらはレアケースと捉えてよさそうです。

私達が気を付けなければいけない病原細菌は室温に晒すと爆発的に殖えるものが多い、と覚えておいて下さい。そのため給食の大量調理マニュアルには次の様に記されています。

調理後直ちに提供される食品以外の食品は、食中毒菌の増殖を抑制するために、
10℃以下又は65℃以上で管理することが必要である。(別添3参照)

加熱調理後、食品を冷却する場合には、食中毒菌の発育至適温度帯(約20℃
~50℃)の時間を可能な限り短くする
ため、冷却機を用いたり、清潔な場所で
衛生的な容器に小分けするなどして、30分以内に中心温度を20℃付近(又は
60分以内に中心温度を10℃付近)まで下げるよう工夫すること。
この場合、冷却開始時刻、冷却終了時刻を記録すること

大量調理施設衛生管理マニュアル
( 平 成 9 年 3 月 2 4 日 付 け 衛 食 第 8 5 号 別 添 )
(最終改正:平成 29 年 6 月 16 日付け生食発 0616 第 1 号)

冒頭のマフィンの件は、販売者も気温を疑っていましたが、原則として調理したものを室温で保管するといった事は、他に静菌効果(3~5)がなければやってはいけないことです。これはマルシェや店頭販売でも散見されることですが、手作りの食品を暖かい所に陳列して良いかどうかは、販売者も購入者もよく注意しなければならないことだと思います。

3.水分

水気の多い食品は腐敗の進行が早いというのは感覚的にもご存じの方は多いと思います。では水分が多ければ必ずNGなのかというと、そうではありません。ここで細菌増殖の視点から「水分」というものを考えてみたいと思います。

「ん?何言ってんのだろう….」と思われた方もおられることでしょう。

もう少し見てゆきましょう。

皆様はテレビ番組や教科書などで研究者がシャーレという平たいお皿の上で、微生物を培養している様子を見たことがある方もおられると思います。あれは、寒天というトコロテンの材料などに水分をたっぷり含んだ「培地」と呼ばれる環境をわざと作ってあげて微生物の繁殖を促しているんですね。

なぜ寒天が宜しいのでしょうか。それは微生物が水分や栄養の多い方角に目がけて増殖したいからですね。そのため、どの方向にも均一に水分も栄養も豊富な水分たっぷりの寒天が好ましかったという訳です。

このことから分かるとおり、微生物にとって自由に使える水や栄養があるかどうかが鍵となります。微生物たちが”自由に使える水”の事を専門用語で「自由水」と呼ばれます。とある理由(後述)で自由に使えない水のことを「結合水」と呼びます。この自由水と結合水の割合の事を「水分活性」と呼ぶのです。

一般に水分活性が0.90を下回ると細菌類が、0.88を下回ると酵母が、0.80を下回るとカビが繁殖できないとされています。水分活性値が0.65以下(0.60以下という文献もあります)ではほとんどの細菌が繁殖することが出来ません。

水分活性値を具体的に知ることは難しいですが、糖度の高いものや塩分の高いものは結合水の割合が高く、自由水の割合が低い、すなわち水分活性が低い状態を実現できます。糖液ですと60 Brix%以上、塩分ですと11~12%程度の塩分濃度以上では細菌増殖を顕著に鈍らせるとができるとされていますね。

乾燥によって水分量を下げるという方法もよく採られています。また油漬も有効な方法と言えますね。

重要なのは、保存したい食品から自由水を切り離すことです。食品自身に含まれている自由水を追い出して糖液や塩水を浸透させたり(液置換)、油漬する際には予め水分をしっかりと除去することが大事です。浸漬液に保存したい野菜をドボンと漬けるだけではNGなのです。

4.pH(水素イオン濃度)

食品の液性というのもキーファクターです。液性というのは、難しく言えば溶液のpHとか水素イオン濃度とか言いますが、平たく言うと溶液が酸性なのかアルカリ性なのか、という事です。

酸っぱいものは腐りにくい、酢漬にするとお魚とかも保存が利くようになると言いますが、あれは細菌が増殖出来ないからと言えるでしょう。一般に細菌が増殖できるpHはpH5.0~pH9.0、弱い酸性から弱いアルカリ性であるとされています。

もう少し詳しく見ていくと、大部分の細菌はpH7.0~7.6(中性に近い)で増殖します。ただし例外があり、真菌(カビ等)や乳酸菌はpH6.0~pH6.6(酸性に近い)、コレラ菌や腸炎ビブリオはpH8.2~pH8.8(アルカリに近い)で増殖します。

このpHの範囲外であれば、細菌の増殖を抑えることが可能となります。

皆様はコンビニのおにぎりやお弁当の原材料に”pH調整剤”というのが使われているのをご存じでしょうか。クエン酸、クエン酸三ナトリウム、リン酸などが主な成分ですが、この役割こそ細菌の増殖を抑えるものです。pHを適切な範囲に収めるために使われているのですね。

天然の素材ではやはり酢。マヨネーズは酢と塩の静菌作用で保存性を高めています。

5.酸素需要

1~4は「守っておけば概ね大丈夫です」と言えたのですが、酸素需要すなわち空気を遮断するのが細菌の増殖抑制に一役買うのか、という点については実は一概にいえないのです。そのため今回は文献とは異なる順番でご紹介することにしました。

空気をシャットアウトする方法といえば、油漬、レトルトパウチ、瓶詰め、缶詰など。これらは非常に有効なように思えますが、「空気を追い出したら絶対大丈夫」とは言えないので要注意です

酸素の要求によって細菌を分類すると、偏性好気性菌、通性嫌気性菌、微好気性菌、偏性嫌気性菌の4つに大別されます。この中で酸素を遮断して抑制できるのは、実は偏性好気性菌だけなんです(!)偏性好気性菌の代表例としては結核菌、緑膿菌、枯草菌など。通性嫌気性菌は酸素の有無にかかわらず生育するもので、サルモネラ菌、ブドウ球菌、大腸菌などよく知られた食中毒菌が挙げられます。残り2つは酸素が少ない、もしくは酸素がないところでこそ生育するというもので、カンピロバクター(微好気性菌)、ボツリヌス菌、ウェルシュ菌などが挙げられます。

ボツリヌス中毒で死者が出たというニュースが度々あるのをご存じでしょうか。日本では熊本名物のからし蓮根を真空パックにして販売したものから過去に食中毒が発生したことがあり、これはボツリヌス菌の仕業でした。海外では、腸詰め肉をはじめとして様々な加工肉保存食品で食中毒を引き起こす事があるとても怖い菌なのです。

なんとなく「瓶詰めや缶詰、レトルトパウチがあるから空気の遮断は有効だね!」と思われている方が少なくないように思えるのですが、それらは他のアプローチ(1~4)で菌の増殖を抑制した上で、品質を安定させていると考えるのがよいかと思います。多くの場合、最初に高温処理をして細菌を死滅させてから密封するという事が取られていますね。これは細菌を物理的に侵入させないことで無菌状態を保っているというアプローチです。

しかし酸素需要が少ないと静菌するものも実際にいますので、まったく増殖を抑える効果は期待できないとまではいえないでしょう。

まとめ

本記事では細菌の増殖を抑えるための5つのポイントを見てきました。これらの作用を静菌作用とも呼びます。

細菌がそもそもいるかいないかというのは大事ですが、購入者としての私達がそれを推し量ることは極めて難しい以上、作られたものが法令を遵守した製造現場、作業標準であること(営業許可の有無)、製品が正しい静菌環境におかれているかを見て食中毒の危険性を把握することが、リスク回避の要点となります。逆に言えば製造側にとっても、事業者としてそのような視点が欠けていないかを常に自問自答しながら営業してゆくことが、公衆衛生の観点からも事業継続の観点からも誠実な対応と言えるでしょう。

細菌の増殖は1~5を単独もしくは複合的に実施することでかなり防げます。

「あ、これは生育至適温度外で管理されているかな」「pH調整や水分活性低下の対策はちゃんとしているかな」という感じで、衛生対策のお役に立てて頂ければ幸いです。

というところで、今回は終わりにしましょう。

次回は食中毒菌の種類や過去の事例に基づいたリスクアセスメントの参考になるような事を取り上げたいと思います。

最後までお読み頂き、誠に有難うございました。

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